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2013年2月

2013年2月

草原の輝き

世界は片側から見てもわからない

岸惠子を追いかけて③

娘の教育のため国外への移住を主張する妻シミンと、
認知症の父のために反対する夫ナデル。
裁判所と相談したが話し合いは決裂し2人は別居する。
ナデルは昼間は勤務で、娘は学校。
父の世話をするために家政婦を雇うが、
ある時、父をベットに縛り付けて外出していた家政婦を
ナデルは玄関から突き飛ばして追い出し、
そのため家政婦は流産してしまう。
夫は告訴される。
120日以降の胎児は人間とみなされるため、
殺人罪に問われるかもしれない。

そこに失業中の家政婦の夫もからんで、
どうにもならぬ泥沼へ。
昨年のアカデミー外国語映画賞を受賞したイラン映画『別離』である。

イスラムの教えを忠実に守る家政婦、
失業中で荒れて事態を深刻にするその夫。
慰謝料で解決しようとする合理的な考えのシミンと、
それでは罪を認めることになると
かたくなに拒否する気位の高い夫ナデル。

そして、たとえ認知症でも他人の男の体に
直接触れることが許されないイスラムの教え。
よくぞここまで描けたものとわたしたちは感心する。
イスラム革命を遂げたイランについて
ニュースで目にするのは、
核兵器の開発に熱心で、反米姿勢を露わにし、
ときにはナチによるユダタ人ホロコーストまで
否定する大統領をもつ国というイメージ。
さらに、イスラム原理主義のもとでは
女性が教育を受けることさえ
イスラムの教えに背くという強硬な武装勢力が
通学中の女子学生の頭を銃撃する。

そういうわたしたちに刷り込まれたイスラム世界や
イランについての常識をこの映画は吹き飛ばしてしまう。
彼らが抱えている問題は
いま世界や日本で起きていることと変わりはない。

 
イランは離婚率が高い。
妻が離婚していなくなれば、
たちどころに介護の問題が現れるのは、
日本とて変わりがない。
ただイランには、イスラムの教えに忠実なことが、
問題を複雑にすることもあるけれど。

映画は2時間のあいだ、緊迫した画面が続く。
最後の娘の選択の行方の重さが
わたしたちを椅子から立たせない。

アカデミーのみならず、
西欧諸国はじめ世界中の映画祭で
90もの賞を獲得した名画である。
あのスピルバーグやウッディ・アレンが感嘆して
この映画の監督A・ファルディに
ファン・レターを送ったというエピソードまである。
この映画を公開時に見なかったことを今は後悔している。

わたしたちのテーマ「女優・岸惠子はいかにして
国際的ジャーナリストに変身したか」、
その大きな理由の一つが、
彼女のイスラム革命真っ最中の
イラン行きにあったことを知ったのは
この映画の公開後1年たってからのことなのだ。

岸惠子さんが訪れたのは1984年のテヘランである。
いまはテヘランはあのときの街ではない。
わたしたちがニュースでイメージする街ではなく、
市場は活気に満ちて、
人びとは富裕層も貧しい人も人間的で、
わたしたちが抱える悩みを同じように共有している。

メディアの情報だけで
世界や社会を理解したつもりになってはならない。
ニュースには片方の真実しか触れない危険がある。
そのことをこの映画でまた認識することになった。

映画「別離」

a:2001 t:1 y:0
 

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