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2013年3月

2013年3月

草原の輝き

誰もが銀河をもっている

東日本大震災で野球部の友人をいっぱい失った少年が
青森の高校に転校してきた。
その学校では野球部のメンバーが一人足りない、
それでは甲子園に行けないと焦る女子マネージャーがいた。
甲子園どころではないヘボチームだけど。
誘われた少年は断る。もう野球さえできない友だちのことを考えると、
ボールなんか握れない。

 焦ったマネージャーに友人が「いいコーチを紹介する」という。
それがイタコである。青森の恐山のイタコは
死んだ人びとをこの世に呼び寄せる魔力をもっている。
イタコが呼び戻したのは、沢村栄治。
戦前のプロ野球の英雄で、
来日したベーブルースを剛速球できりきり舞いさせた
伝説のエースである。

 沢村栄治がのりうつった少年の剛速球は
あと一歩で甲子園までくるが、
体力の限界で倒れて負けてしまう。
落ち込んでいる少年を野球部のメンバーが囲んで、
イタコに何かを頼むと、メンバーはたちまち震災で死んでしまった
野球の仲間たちになっている。
もっと野球をしたかったに違いない仲間たちに。

 2012年全国高校演劇コンクールで最優秀賞をとった
「もし高校野球部の女子マネージャーが青森の『イタコ』を呼んだら」、
通称「もしイタ」である。もちろんベストセラーの
「もし高校野球のマネージャーがドラッガーの
『マネージメント』を読んだら」のパロディである。

 それをわたしはある中学校の演劇部の卒業記念公演で観た。
それも学校の食堂ホールである。
一切の道具、舞台装置を使わず、
すべて生徒たちの演技と声だけで表現するこの劇は、
設定がとっぴなだけに、
笑いをいっぱいこめた劇で、
観ている生徒たちも最後まで笑い転げていた。
 楽しくてあっという間の劇だったが、
こめられた思いは寂しくてつらい。

大震災で亡くなった野球部員は
もう一度野球をしたかったに違いないし、
戦争で肩を壊し南方で死んでいった沢村栄治は、
あと一球投げたかったに違いない。

 この中学校演劇部は都中学演劇コンクールで、
18歳の女子高校生「原くくる」が書いた戯曲
『スズキくんの宇宙』を上演し、奨励賞を受賞している。
中学校でいじめにあっているスズキくんが、
いつか宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のジョバンニになって、
カンパネルラに出会い、ひとりひとりに銀河がある、
ジョバンニにも千の銀河があり、
人はみんな銀河鉄道をもっているとうたいあげる劇である。
 中学校のイジメは、聞くのがつらくなるほど陰湿である。
それでもどんな悲惨でも、
人にはいま見えないけれどきちんと銀河がある。
誰かが言っていた。20年前の自分に、声をかけてあげたいと。
銀河をみつけなさい。あなたのことは誰かが見ている。

中学の卒業公演のあと、
卒業を控えた一人の女子生徒の表情が崩れた。
それまでのクールな役柄とは変わって、
思わず出た、自然な涙だった。
後輩たちが声をかけて、とてもいい情景だった。
20年後の彼らが見てもいい表情だった。
銀河を見つけた少年少女たちの顔だった。

演劇部の先生と生徒達

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