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2013年4月

2013年4月

目的は手段を浄化しない


岸惠子さんの新刊小説が出て、
話題づくりのうまい出版社のおかげで
岸さんがちょっとしたブームである。
しかし、岸惠子さんの足跡を追っていたわたしたちには、
あまり関係はないかもしれない。たとえばわたしたちは、
岸惠子のこんなところが、とても気になるのだ。

パリのテレビでアフガニスタンの山岳地帯に暮らす
3人の子どもたちが写っている。
みんなチャドルという布で体も顔も覆っている。
家にいるのは3人の女の子だけである。

 父親は兵隊にされるために引っ立てられていった。
母親はそのあとに来たタリバンから住んでいるところを
「占拠するから出て行け」と命じられ、
行く所がないと抗うと殴る蹴るの乱暴のあと殺された。
しかも男たちは母親の死体のある家の中に2日間居続けた。

上から15歳、12歳、9歳の少女ばかりである。
「で、あなたたちは…」と聞こうとした女性のインタビュアーを
見つめる十五歳の少女の瞳から涙が一粒、筋をひいて流れた。
岸さんが見たもうひとつの番組では、
米軍のあまりに激しい爆撃で孤児になった幼子が
何もかも引き裂かれて笑うことしか
出来なくなってしまった姿を写している。
その映像を見た岸惠子は言う。
「アルカイダも米軍も、なんと罪深いことか。
聖戦の大義もアメリカの正義も『糞食らえ』と私は思う」

わたしたちはそういう岸惠子を追ってきた。
それがテーマだった。
ドレフュス事件とユダヤ人問題、
イスラエルとパレスチナの関係に岸惠子はどうかかわったか。
ハンガリー動乱・チェコ事件に同時代人として出会って、
岸惠子はどう感じたか。
そしてイラン革命とイスラム教との出会い、
イランの庶民と交流して何を感じたか。

これらのテーマを6回。でも足りないものがある。
つまり、今の岸さんはどんな考えをもっているのか、
そして、イスラムの今はどうなっているのか。
最初にあげたシーンは岸惠子さんが2005年に出版した
『私の人生ア・ラ・カルト』で描かれている。
そこでの岸さんの考え方、ポジションが、
現在の岸さんとほぼ同じだろうとわたしたちは考えて、
この例をあげたのだ。

しかしこういう意見もある。
「アフガニスタンやイスラム民族があんなになったのは
そもそもアメリカの侵略戦略のせいではないか。
それを両方ともクソ食らえというのはおかしい!」
 よってきたる由縁、そうなってしまった根拠をあげて、
どちらが正しいかと考えると、こういう声も出る。

こういう問題の時、わたしたちはどう考えるか。
それをこれまでのフォーラム色川の学習会の
さまざまなテーマに取り組む中で学んできた。
目的は手段を浄化しない。手段の中にこそ、
人間の失ってはいけないものがある。
たとえ侵略したアメリカが悪かろうと、
少女に深い心の傷を負わせる行為をしたアルカイダは、
やっぱり「クソくらえ!」である。
 
これは「革命時にはときに民衆をまきこむこともある」
という考えの中に潜む民衆蔑視の行き着く先ではないのか。
少女の心と体を傷つける権利は、
たとえ「正義の戦い」の担い手であろうと、まったくない。

かつて中国の内戦時、中国人民解放軍は
民衆に迷惑をかけないよう軍隊の中に厳しい規律をしいた。
彼らの立ち去ったあとの爽やかさは、
伝説として中国民衆の中に生きているし、
それを実際に目撃した日本人の証言もある。
同じ人民解放軍が、
チベットの民衆をまるで犬のように扱って虐待し、
天安門事件では中国を憂えて立ち上がった学生たちを
虐殺したという歴史の落差を、
わたしたちは忘れてはならないが。

この問題は、どうしてイスラム過激派が力をもつのか
という話にも関連する。
ひとつの例がある。彼らは政府にうち捨てられた庶民が
病気やケガで病院にいったとき、親身で世話をする。
政府系の病院は金をもたない貧乏な庶民は相手にしないというのに。
彼らは学校を作って人びとの教育への渇望に応える。
そうした信頼が、パレスチナでは
ハマスのような過激勢力が議会を制するあとおしをする。
そういう面を見なくてはならない。

しかし一方で、小さな子どもをさらって洗脳して
武装ゲリラに仕立て上げる過激派もいる。
世界は簡単ではない。「よってきたる由縁」
で考えられるほどたやすくはない。
それでも、やはりわたしたちは、
目的の気高さを忘れず、
しかも手段にも気高さを失わない人間でありたい。
それが、岸惠子さんとともに共有できることではないのか。

それが8ヶ月の講座を終えてのわたしたちの感想である。

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